山口地方裁判所 昭和47年(ワ)101号 判決 1976年3月31日
原告
竹田義道
右訴訟代理人
田口隆頼
被告
三好マサコ
右訴訟代理人
青木健治
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対して、金六〇万円とこれに対する昭和四七年一〇月四日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。右の請求が理由のないときは、被告は、原告から金一六万二、九二七円の支払を受けるのと引換に、別紙目録記載第一から第四までの各不動産について、山口地方法務局大田出張所昭和四七年六月二四日受付第二一七二号所有権取得登記の抹消登記手続をし、かつ、同目録記載第五の建物の引渡をせよ。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。
原告は、竹田タリの夫であり、被告は、タリの妹であるが、タリは、昭和四七年三月三一日死亡したので、その相続が開始した。タリは、相続開始当時、別紙目録記載第一から第五までの価額合計金四九万四、三九〇円相当の不動産および合計金五〇万円相当の動産と預金債権を有していたが、これよりさき、昭和四七年三月二二日、山口地方法務局所属公証人岡崎国一作成同年発簿第一三三号遺言公正証書により、タリは、自己所有の財産全部を被告に遺贈したので、タリの死亡と同時に、被告は、前記目録記載第一から第四までの各不動産を取得し、山口地方法務局大田出張所昭和四七年六月二四日受付第二一七二号をもつて所有権取得登記を経由したほか、タリの死亡と同時に同目録記載第五の建物、右の動産および預金債権、以上の価額合計金九九万四、三九〇円相当の遺産を取得した。
しかしながら、タリの相続人は原告と被告であり、原告は、遺留分としてタリの財産の三分の一の額を受ける権利を有するところ、タリは、原告の右の権利を害することを知つて右遺贈をなしたものであるから、原告は、被告に対し、本訴により、右遺贈の目的の価額九九万四、三九〇円に対する三分の一の遺留分の価額三三万一、四六三円の限度において右遺贈に対する遺留分減殺請求権行使の意思表示をする。
従つて、被告は、遺贈の目的物を返還するため、原告から右不動産の価額四九万四、三九〇円より遺留分の価額三三万一、四六三円を控除した残額すなわち超過分の価額一六万二、九二七円の支払を受けるのと引換に、前記目録記載第一から第四までの各不動産に対する前記抹消登記手続と同目録記載第五の建物の引渡をなすべき義務がある。
もつとも、原告は、本件に関し、昭和四七年一〇月三日、被告の代理人吉永保義との間において、裁判外で、原告が右の遺留分減殺請求権を放棄することを条件として、被告が原告に対して金六〇万円を支払う旨の和解契約が成立した。よつて、原告は、被告に対し、第一次請求として、右和解金六〇万円とこれに対する和解成立後の昭和四七年一〇月四日から完済まで民事決定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、右の請求が理由のないときは、予備的請求として、原告から金一六万二、九二七円の支払を受けるのと引換に、前記目録記載第一から第四までの各不動産について前記所有権取得登記の抹消登記手続と同目録記載第五の建物の引渡を求めるため、本訴請求に及んだのである。
なお、被告の主張事実のうち、タリが旧姓重富こと元森頴子と養子縁組をしていることは認めるが、その余の点は否認する。
右養子縁組は、当事者に真実の縁組意思がないのに、原告の資産の侵奪を企図し、ただ形式的に縁組の届出をしただけのものであつて、その実態はないのであるから無効である。
被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として次のように述べた。
原告の主張事実のうち、原告が竹田タリの夫であり、被告がタリの妹であること、タリが昭和四七年三月三一日死亡し、相続が開始したこと、タリが、昭和四七年三月二二日、山口地方法務局所属公証人岡崎国一作成同年発簿第一三三号遺言公正証書により、自己所有の財産全部を被告に遺贈したこと、被告が、別紙目録記載第一から第四までの各不動産について、山口地方法務局大田出張所昭和四七年六月二四日受付第二一七二号をもつて所有権取得登記をしたことは認めるが、その余の点は否認する。
タリは、昭和三九年四月二二日、旧姓重富こと元森頴子を養子とする縁組の届出をなしているから、タリの相続人は原告と右頴子である。そして、原告と頴子は、遺留分としてタリの財産の二分の一の額を受けることになつており、各自の相続分に応じた原告の遺留分は、右の二分の一の三分の一、すなわち、タリの財産の六分の一の額である。
従つて、原告の本訴請求は、すべて失当である。
立証<略>
理由
先ず、原告の第一次請求について判断する。
原告が竹田タリの夫であり、被告がタリの妹であること、タリが旧姓重富こと元森頴子と養子縁組をしていること、タリが昭和四七年三月三一日死亡して相続が開始したこと、タリが、昭和四七年三月二二日、山口地方法務局所属公証人岡崎国一作成同発簿第一三三号遺言公正証書により、自己所有の財産全部を被告に遺贈したこと、被告が、別紙目録記載第一から第四までの各不動産について、山口地方法務局大田出張所昭和四七年六月二四日受付第二一七二号をもつて所有権取得登記をしたことは、当事者間に争いがない。
原告は、タリと旧姓重富こと元森頴子との養子縁組が無効であるとして、当事者に真実の縁組意思がなかつた旨主張するけれども、原告本人尋問の結果のうち右の主張に副う部分は信用し難く、証人吉永保義、椙元の各証言によつてもこれを認めるに足らず、かえつて、<証拠>によれば、右養子縁組が当事者の真に縁組をする意思で縁組したものであることを認め得るから、原告の右の主張は理由がない。
原告は、本件に関し、昭和四七年一〇月三日、被告の代理人吉永保義との間に、裁判外で原告主張のような和解契約が成立した旨主張するけれども、この点に関する原告本人尋問の結果はにわかに信用し難く、証人吉永保義、椙元の各証言によつて右の事実を認めるには足らず、他にこれを認め得る証拠はなく、かえつて、証人吉永シヅ子の証言、原被告間に本件訴訟が現に進行中である事実に照らしてみても原告の右の主張は採用し得ない。
従つて、右和解契約の成立を前提とする原告の第一次請求は理由がない。
次に、原告の予備的請求について判断する。
<証拠>によれば、タリが、相続開始当時、別紙目録記載第一から第五までの価額合計金四九万四、三九〇円相当の不動産を有していたこと、被告がタリの右遺贈によりタリ所有の右財産全部を取得したことが認められ、これに反する証拠はない。
原告は、タリが相続開始当時合計金五〇万円相当の動産と預金債権を有していたと主張するけれども、これを確認するに足りる証拠はない。
さきに認定したところによれば、タリの相続人は、原告と頴子であり、原告と頴子は、遺留分としてタリの財産の二分の一の額を受けることになつており、各自の相続分に応じた原告の遺留分は、右の二分の一の三分の一、すなわち、タリの財産の六分の一の額となるが、前記のとおり、タリが自己所有の財産全部を被告に遺贈する旨のいわゆる包括遺贈をした以上、反対の事情の認められない本件では、右遺贈は、被告が原告の遺留分を侵害することを知つてなしたものといわなければならない。
そして、原告が、被告に対し、本訴により、タリの右遺贈に対する原告主張のような内容の遺留分減殺請求権行使の意思表示をしたことは、記録上明らかである。
ところで、本件のように、減殺の目的物が数個あり、また、土地建物のような性質上不可分の目的物について、遺留分に基づく減殺請求がなされた場合、民法第一〇三四条、第一〇四一条の法意に徴し、受遺者が相続人との共有関係に甘んずるか、価格を弁償してこれを阻止するかの選択権は受遺者にあり、当然には受遺者に遺贈の目的物の返還義務はないと解すべきであるから、原告が遺留分減殺請求権を行使した結果、タリが被告に遺贈した前記各不動産の価額の六分の一の部分は、原告の遺留分を侵害するものとして減殺されたことになり、その限度において、右遺贈は失効し、原告は、前記各不動産について、持分の六分の一とする被告との共有関係にあるものと認めるに止めるのを相当とする。
そうしてみると、以上と異なる主張に基づく原告の予備的請求も、また、理由がない。
結局、原告の本訴請求は、この上判断を加えるまでもなく、すべて失当として棄却を免れない。
よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (浜田治)
目録
第一、美禰郡美東町大宇二の高山二八七三番地家屋番号二八七三
一、木造瓦葺平家居宅
床面積 111.55平方メートル
附属建物
符号3
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建物置
床面積 64.15平方メートル
第二、同所二八七三番
一、宅地 591.73平方メートル
第三、同所二八七七番二
一、宅地 150.41平方メートル
第四、同大字字大浴一四三七番九
一、山林五九五平方メートル
第五、同大字字二の高山二八七三番地
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建鶏舎
床面積 39.66平方メートル
(未登記建物)